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2026年5月19日(火)

藤沢の映画館で育った少女が、名店ビルで映画を撮るまで──藤本東子監督インタビュー

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藤沢駅南口にそびえ立つ「フジサワ名店ビル」。市民にとっては日常風景の一部だったあの建物が、いま一本の映画の舞台になろうとしています。手がけるのは、藤沢で生まれ育ち、アメリカで建築と映画を学んだ映画監督・藤本東子(ふじもと はるこ)さん。391 THEATRE PROJECT レジデント・アーティストとして、共同制作者の鈴木順也さんとともに進めるプロジェクト『名店にて』は、2027年3月の完成を目指しています。彼女が故郷に向ける眼差しと、プロジェクトに込めた想いをうかがいました。

取材は名店ビル6階グリーンルームにて実施

藤沢の映画館で育った映画好きな少女


「生まれも育ちも藤沢です。5歳くらいまでは鵠沼海岸にいて、それから駅の近くに引っ越してきました」


そう語る藤本さんの映画への原体験は、藤沢の街そのものにあります。かつて藤沢駅周辺にあった「オデオン座」「フジサワ中央」、そして近所にあった古い映画館「みゆき座」。家族みんなが映画好きで、足繁く通ったそうです。

子供の頃から映画に夢中だった

「一番最初に見た映画で記憶にあるのは、みゆき座で見た『アラジン』です。むちゃくちゃ衝撃を受けて、こんなに面白いものがあるんだと思いました」

特に夢中になったのはアメリカ映画でした。映画に影響を受けて「アメリカに行きたい」という気持ちが、後の進路を決めていくことになります。
その夢を後押ししたのが、高校1年の夏休みに経験したオーストラリアでの1ヶ月間のホームステイ。

「毎日が楽しくて、こういう生活ができたらいいなと。海外に行きたい気持ちが強くなりました」


建築を学びながら、映画を諦めなかった日々


大学進学のタイミングで、藤本さんはアメリカへと渡ります。最初に専攻したのは、意外にも映画ではなく建築でした。

「建築は図面を見るのが昔から好きで、アートと理系が混ざっている分野だなと思って選びました」


ロードアイランド州の大学で3年学んだ後、シカゴのイリノイ工科大学に編入。計6年間、建築の世界に身を置きました。

建築を学んでいた大学時代

しかし、心の奥にあった映画への想いは消えなかったといいます。

「学生映画の手伝いをしたり、映画製作のワークショップを受けたり。映画が好きだという気持ちが、ずっと忘れられなかったんです」


それでも、自分から映画を撮り始めるには勇気が必要でした。「自信もないし、誰かに認められないとできないのかなと思って、こそこそ脚本を書いていました」と振り返ります。

転機が訪れたのは7〜8年前。「自分で作り始めればいいんだ」と、ふと気づいたそうです。それからの行動は早いものでした。ネットワーキングのイベントやワークショップに足を運び、「映画を撮りたいんです」と言いふらして回ります。すると「僕カメラ持ってるから撮るよ」と協力してくれる人が現れる。レストランを舞台にした会話劇が、藤本さんの実質的なデビュー作となりました。

パンデミックが背中を押した、人生の選び直し

そして決定的な転機となったのが、コロナ禍でした。

「パンデミックで自分の人生を見つめ直したんです。ずっと隙間時間で映画を撮っていたけど、もっと毎日映画のことを考えたい、自分は映画が本当に好きなんだと思って」


2022年、藤本さんはニューヨーク市立大学シティカレッジに入り直し、映像制作を本格的に学ぶ道を選びます。中途半端にやって後悔するくらいなら、本気でやって失敗したほうがいい──そんな覚悟でした。

シティカレッジで映像制作を学ぶ

ニューヨークでの学びの中で特に印象的だったのは、ドキュメンタリーのクラスだったとか。

「ドキュメンタリーの手法をフィクションに活かすスタイルを学べたのは大きかったです」


2024年に卒業し、日本へ帰国。これまでに監督・製作した短編は8本にのぼります。現在は自身の監督作品のほか、助監督やプロデューサーとしても活躍。海外の監督作品に共同プロデューサーとして参加することもあり、国境を越えた映画作りにも取り組んでいます。

「何気ない日常」を撮りたい

影響を受けた監督について尋ねると、学生時代に夢中になったのはジュゼッペ・トルナトーレ監督の『海の上のピアニスト』、そしてヒッチコック作品だそうです。けれど、いまの藤本さんが惹かれるのは、また少し違う世界観なのだとか。

「若い時は悲劇的なもの、刺激の強いものが好きでしたけど、今は是枝裕和監督の作品のような、何気ない日常生活を描く作品がすごく好きです。趣味が少しずつ変わってきました」


2022年に発表した『おくさま』は、大正時代を舞台にした時代物。和洋折衷の文化が混ざり合う独特な空気感を切り取った作品で、藤沢出身の俳優も出演しています。同作はCUNYアジアン・アメリカン映画祭で最優秀フィクション賞を受賞。藤本さんが幼少期を過ごした鵠沼海岸の映画館「シネコヤ」をはじめ、国内外で上映されました。「反響も大きく、自分でも思い入れが強い作品です」と語ります。

『おくさま』(2022年)

「名店ビル」という交差点を撮る


そして現在進行中なのが、藤沢駅前の名店ビルを舞台にした映画プロジェクト『名店にて』です。
「子供の時からこの近くに住んでいたので、名店ビルは本当によく通う場所、日常生活の一部でした」

映画で使用する小道具も試行錯誤中

きっかけは、建物の横に掲げられた大きな懸垂幕だったといいます。
「ダンディまるだし」といった独特なキャッチコピーを見て、「名店ビルの人たちって面白いんだ!」と強く意識するようになりました。
そして1年ほど前、名店ビルでアーティスト活動を支援するプロジェクト『391 THEATRE PROJECT』(運営:Landscape THEATRE. )の存在を知ります。折しも、同じく藤沢在住の映画監督・鈴木順也さんと出会い、「名店ビルで映画を撮ったら面白いんじゃないか」と意気投合した2人はユニットとして応募、レジデント・アーティストに採択されました。

藤本さんが描きたいのは、デパートという場所が持つ「交差点」としての性格です。

「色々な人がやってきて、同じ場所で時間を過ごして、また違うところに行く。そんな場所の特性を活かした話にしたいんです」


過去・現在・未来を行き来しながら、悩みを抱えた登場人物が少しずつ希望を見出していく──そんな物語を構想しているそうです。

「名店ビルだからこそ起きたであろうドラマを、ひとつひとつ拾い上げていきたい」


フジサワ名店ビルは、隣接する「ダイヤモンドビル」「CD(プライム)ビル」とともに2027年夏の営業終了が発表されており、その後、3棟一体での再開発工事が始まる予定です。
1965年(昭和40年)の開業から60年以上、藤沢市民の「台所」として愛されてきたあの空間が姿を消す前に、いま撮れるものを撮っておきたい。プロジェクトのゴールは2027年3月。
そこに向けて、短編をいくつも撮影しながら、少しずつ歩みを進めています。

一緒に「藤沢の映画」を作りませんか

藤本さんは、このプロジェクトを一緒に作ってくれる仲間を探しています。

「映画に出てみたい人、エキストラをやってみたい人、裏方に関わってみたい人。SNSやウェブサイト運営など、広報を手伝ってくれる方もとても助かります。どんな形での参加でも大歓迎です」「資金面でのスポンサーも募集中です。地元の企業さんや、プロジェクトを応援したいと言ってくださる方がいたら、本当にありがたいです」

名店ビルの391 THEATRE PROJECT レジデント・アーティストとして紹介されている

そして、映画の素材になりそうな「名店ビルの思い出」も募っているとのこと。あの店で買い物をした記憶、あのフロアで誰かと過ごした時間。藤沢で暮らしてきた人なら誰もが持っているであろう小さなエピソードが、映画の中で新しい命を吹き込まれるかもしれません。
プロジェクトの公式ウェブサイトの問い合わせから、エピソードを送ることができます。

「緩さ」のある街、藤沢へ

最後に、藤沢の人たちへのメッセージをお願いしました。

「藤沢を一度離れて気づいたのは、本当に素敵な場所だなということです。穏やかで、色々な人がいて、それをみんなが受け入れている。その『緩さ』が面白いなと」


この映画に込めたいのも、まさにその空気感なのだとか。

「色々な人がいるんだ、という感じを表現したい。湘南が大好きだと思っている方がいたら、その気持ちを映画にぶつけてみませんか」


飽きっぽい性格を自認する藤本さんが、唯一ずっと好きで続けてこられたのが映画でした。

「一回撮ってみて上手くいかなくてがっかりした時期もありましたけど、やっぱりやりたいという気持ちを持ち続けていると、不思議と突破口が見えてくるんです」


藤沢の映画館で映画に魅せられた一人の少女の夢が、いま藤沢の名店ビルで形になろうとしています。
市民の記憶が詰まったあの建物が、誰かの新しい物語の舞台になる。その瞬間を、私たちも一緒に作っていけるかもしれません。

プロジェクト情報

出演希望者・スタッフ・スポンサー・思い出エピソードなど、各種協力者を募集しています。詳細は公式ウェブサイトより。

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