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2023年10月24日(火)

幸せのつくり手

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おいしい自家焙煎コーヒーが人気の
菖蒲沢にある古民家カフェ
7325coffeeのマスター
雄介さんが
陶芸の販売を始めた。

7325(以下ナミニコと呼ばせてください)
を訪れるお客さんが
見るもの、触れるもの、
口にするものに
手づくりの優しさがともなう。
大きなトラックが行き交う
道路も
天高く枝葉を広げる欅が
隔てれば
耳にするのは鳥のさえずり。
“ナミニコ“
という場にいるだけで
「幸せだ。」
と感じられるのは
なぜだろう。
そんな問いが
コーヒーの湯気に浮かんでは
消えていく前に、
手のひらに確かな重みを
伝える
手作りのコーヒーカップについて
話を聞いた。

ー最初は既成品のカップで出していたんだけどー

そう言うと、女将の里美さんが
以前使っていた乳白色のカップを
持ってきてくれた。

「鵠沼海岸で営業していたときに
自分の店のカップがほしくて
友達にロゴを描いてもらったんだ」と
見せてくれたカップには
友人の
漫画家・イラストレーターの
ともこさんが
描いたナミニコ一家の
風景が。
セピア色の線画が
親しげな雰囲気を讃えている。

しかし、いくらオリジナルのデザインを
入れても
土台のカップそのものは
既製品という枠を超えられない。
手渡すとき
口をつけたときの
工業製品特有のひんやりした感覚の
不自然さ。

日々自らの感覚を頼りに
焙煎をしたり
天然酵母でたてた
パンを焼いたりする
ナミニコの日常は
“人とモノ“の関係を
ゆっくりと
確実に
より自然な状態へと戻すことを求めた。

ーいつか自分の手で作った作品で
全てを提供したいー

その願いは必然的に
叶うことになる。

サーフィンが趣味の雄介さんは
波と遊んでいたある日、
障がい者に
海遊びやサーフィン体験を提供する団体
“オーシャンズラブ“の活動を
手伝うことになった。

いつも
友達が導く縁。
自然の中で遊ぶ
無欲なやりとりは
創造豊かな
人生を約束してくれる。

オーシャンズラブスタッフの
お母様が
なんとお隣の茅ヶ崎市で
陶芸教室をしていたのだ。
そして雄介さんは早速
一から
陶芸を学び始めることになる。

さて、
土を練る作業には
菊ねりというものがあり、
空気を押しつぶすように
練り出すと
粘土が菊の紋章のように
美しくまとまってゆく。
今回の取材で
ほんの少しだけ
体験させてもらったが
全くと言っていいほど
コツが掴めない。

それが、雄介さんの手にかかると
みるみる間に
美しい菊の花が艶かしく
姿を表す。
本格的に陶芸を始めて
"まだ3年"
だと謙遜するが、
土に向かう体の動きは
もはや
疑う余地のないプロ。
しなやかで力強い背中は
威厳さえ漂わせている。

ー最初は全然形にならなかったけれど
ふにゃふにゃでも
曲がっていても
好きに作らせてくれたー

自分の感じる「好き」に
正直であること。
そして
「好き」だけが
突き動かす
たゆまぬ努力を
そばで見守ってくれる人が
いること。

雄介さんは温かな視線と
確かな動機に支えられながら
ひとりこつこつと
作品を作り続けている。
今では
焙煎所の一部に
焼き釜も設備し、
成形から焼き上げまで
工房で一挙に
行っている。
素材にはコーヒー豆同様に
天然のものにこだわり、
釉薬の掛け合わせで
様々な風合いを
表現している。
また、大好きな海で拾い集める
シーグラスを焼き締めた
独創的な作品も
生み出している。
忠実な基本の踏襲に加えられる
持ち前の遊び心のおかげで
一つとして
同じ作品はなく、
その引き出しは無限だ。

女将の里美さんと共に
3人の子どもを育てる
“父ちゃん“でもある雄介さん。
陶芸と向き合う時間は
仕事と子育ての合間の
一瞬であり、
土と触れ合うその手は
その日そのときの
精神の揺れをも
具現化する。
それは
まるで「発酵」とも
似ているという。

海辺での8年間の営業を経て
実家である
藤沢市北部の菖蒲沢に移転した
2021年7月以降
お店で出すカップの一部を
自作の陶芸に変えてから
明らかにお客さんとの
会話が違ってきたと
実感している。

そしてこの秋から
店内に入ってすぐ左手に
陶芸専用の棚を設け
月に一度はカップや器などの
新作が顔を並べる。

手にする、
口にする。

食べ物を食すことが
ともすると
オートマチックに
流される現代だが、
心ある人の手を伝い
提供される食事の時間こそが
実は
一番シンプルに
幸せを手にいれられることなのだ。

目で
耳で
鼻で
口で
肌で。
一杯のコーヒーを通じて
作り手ともらい手が
同じ輪の中で
幸せを実感する。
それが体験できるナミニコだからこそ
誰もがほっと安らげる
HOMEとして
みんなに親しまれている所以なのだろう。

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