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2026年5月12日(火)

藤沢本町駅から徒歩1分。
のどかな街並みに、2025年8月、クラフトビール醸造所兼タップルーム「Aura Brewing」がオープンしました。
店主の大浦さんは、会社員として働きながらこの店を切り盛りする、いわば「二足のわらじ」。趣味が高じた開業のようにも見えますが、その背景には、身近な人を想う熱いきもちがありました。

(藤沢13地区をイメージしたクラフトビールを提供)
店主の大浦さんは、人材サービス会社で20年以上働いており、現在は、障がい者雇用を担う特例子会社でマネージャーを務めています。
障がい者雇用に関わる中で、周囲の想像を超える高いパフォーマンスを発揮する彼らの姿に可能性を感じる一方で、同時に「課題」も感じていました。
「オフィスワークが中心の環境では、どうしても雇用の機会を提供できない層がいる。それが、重度知的障がい者の方々でした」
身近に当事者がいる大浦さんにとって、それは決して看過できないことでした。
すべての方に働く機会を。
この想いを実現すべく、自分で雇用機会はつくれないか?
これがすべての出発点でした。
もともと、クラフトビールは好きだった大浦さん。
その世界に深く引き込まれたのは、
茅ヶ崎の「熊澤酒造」で味わった一杯がきっかけでした。
「衝撃的でした。こんなに美味しいものがあるのかと」
その感動は、「自分でも、誰かの心を動かす一杯をつくりたい」という想いへと変わりました。
さらに、ビールの製造工程を知るうちに「クラフトビールの製造工程は、障がいを持つ方々の就労と非常に相性が良いのではないか」という発見がありました。
ビールの製造には、瓶洗いやラベル貼りといった、正確さが求められる「丁寧な反復作業」が欠かせません。また、仕込みから発酵、パッケージングに至るまで、工程ごとに「明確な役割分担」がしやすいという特徴もありました。これなら、一人ひとりの得意を活かした働き方が提案できるのではないか。
「ただビールが好きだから、という理由だけで開店したわけではありません。もしパンが大好きだったら、パン屋を選んでいたかもしれません。私にとってビールは、彼らとともに社会とつながるための、大切な“手段”だったんです」
自身の「好き」と、雇用の窓口をつくりたいという「想い」。その両輪が合致したところに、Aura Brewingの原点がありました。

(ビールを注ぐ大浦さん)
「いつかやりたい」という想いは膨らむ一方、
日々の仕事や生活のなかで、具体的に一歩を踏み出すまでには至っていませんでした。
そんな中、大浦さんに大きな転機が訪れます。
父親が67歳でこの世を去ったのです。
「もし自分も父と同じ寿命だとしたら、残された時間はあと20年しかない」
突きつけられた時間の有限さ。その事実に直面したとき、「いつか」は「今」へと変わりました。
「やりたいことを、今やらないと後悔する」
父の死が、大浦さんの背中を押してくれました。
ビール造りを始めるにあたって、避けては通れないのが「酒類製造免許」の取得です。
そのための修行の地として大浦さんが選んだのは、島根県江津市にある「石見麦酒(いわみばくしゅ)」でした。
家族があり、家のローンも抱えるなかで、多額の資金を投じて大掛かりな設備を整えるのは現実的ではありません。しかし石見麦酒が開発した「石見式醸造法」であれば、限られたスペースとコストで、小ロットながらも多種多様なビールを造り出すことができます。
本場で学ぶべく、東京から最も遠い街「江津市」を選んだのです。

(家庭用冷蔵庫を改造した発酵機を使用する石見式。小規模製造に適している)
そこから約4ヶ月間、島根と関東を往復する生活が始まります。
木曜日の仕事後、羽田から広島へ飛び、レンタカーで険しい山道を越えること2時間。
車中で夜を明かし、翌朝8時から17時は立ちっぱなしの修行を2日間。会社員としての仕事があるなか、この生活を大浦さんはほぼ毎週、4か月繰り返したのです。
「正直、体力的にはかなりきつかったですね」と大浦さんは当時を振り返ります。
「最初に行った帰り道は、あまりの疲労に頭痛がして『これはまずいな』と思ったほどでした」
しかし、不思議なことに2回目以降はその頭痛も消えていたといいます。覚悟が肉体の限界を凌駕していたのでしょうか...。
当時を語る大浦さんの穏やかな笑顔。そこには、リスクや困難を承知の上で、
自ら一歩を踏み出した人の静かで力強い輝きがありました。

(修行中の大浦さん)

(店舗の外観)
2025年8月、ついにお店をオープン。
「正直に言って、事業計画通りには全くいかないですね。決して楽に儲かるものではありません」
会社員としての仕事に加え、店舗の運営、そして自ら行う醸造。
それらが重なる毎日は、文字通り「休みがほぼない」生活です。
人件費や運営コストをどう捻出し、持続可能な形にしていくか。
試行錯誤の日々であるなか、訪れるお客さまの温かさや、周辺店舗の方々の応援が日々の支えの一つになっています。
この地域とのつながりは、大浦さんにとって大きな心の支えとなっています。
店舗探しには約1年を要しましたが、「この場所で良かった」と心から思えるといいます。

(お客さまとのコミュニケーションが取りやすいこだわりのタップルーム)
また、小学生の子を持つ父でもある大浦さん。「子どもとの時間も守りたい」という願いから、自宅と同じ藤沢市を拠点に選んだのもこだわりの一つです。
そんな「Aura Brewing」では、お子様向けのジュースをなんと無料で提供しています。
「親子でも気軽に立ち寄ってほしい」
多忙な日々の中でも家族を第一に想う、大浦さんならではの温かなおもてなしがあります。
「Aura Brewing」は、単にビールを飲むだけの場所ではありません。
「人をつなげるのが好きなんです」と語る大浦さんは、
お客さまの趣味や人柄を大切に覚え、時には「この方はこんな活動をされているんですよ」と、新しい出会いのきっかけもつくってくれます。
ここに来れば、自分の世界が少し広がる。安心感と高揚感が同居する場所なのです。
そんな「つながりの場」を育む大浦さんが見据える最終的な目標は、「重度知的障がい者の雇用機会の実現」。
そのために、重度知的障がい者の方々が働くためのオペレーションとマニュアルの作成を進めていきたいと言います。
ここで運用モデルを確立できれば、そのノウハウを会社へ持ち帰り、さらに大きな規模で雇用の窓口を増やすことができます。
身内に障がい者を抱え、将来の雇用に悩む方々にとっても「自分もやってみよう」と思えるロールモデルでありたいと願っています。
家族との時間、会社員としての責任、そして新たな挑戦。
そのすべてにひたむきに向き合う姿は、まさに覚悟を持って進む人の顔そのものでした。

大浦さんが造るビールは、クラフトビールに馴染みがない方でもスッと楽しめる、優しく飲みやすい味わいです。
ぜひ、藤沢本町でクラフトビールデビューをしてみませんか?
やりたいことはあるけれど、あと一歩が踏み出せない。そんな方も、この場所に来れば、きっと新しいきっかけがもらえるはずです。
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