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2026年3月25日(水)

手のひらの中のキラキラを、あなたのもとへ─移動式絵本屋「ちいさなえほんや百色眼鏡」

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店舗を持たず、絵本を抱えて各地を巡る。

そんなユニークなスタイルで本屋を営む二見奈緒さんに、開業のきっかけから忘れられないお客さんとのエピソードまで、じっくりお話を伺いました。

まず、「百色眼鏡」という屋号の由来を教えてください。


 「百色眼鏡」というのは、江戸時代から大正時代ごろにかけて使われていた、万華鏡の古い呼び名なんです。昔は「万華鏡」ではなく「百色眼鏡」と呼ばれていて、手のひらサイズのキラキラしたものというイメージが、絵本ととてもよく合うと思って屋号にしました。

 移動式の絵本屋を始めたきっかけは?


  第一子が生まれてから10年間、「子育てしかしとらん」という日々でしたけど、不安で心配なことばかりな中、絵本を読んでいれば大丈夫だろうって、なんだかお守りみたいに読み続けて、それこそお腹の中にいるときから読み聞かせしてましたね。

育児がひと段落して「そろそろ何か違うことをやりたいな」と思い始めた時、絵本に関わることなら、きっと一生好奇心が尽きないだろうと感じて、思い切って開業しました。

正直に言うと、最初は経済的な理由から店舗を持てなくて、消去法で移動式になったんです(笑)。でも、移動式でやっている人がほとんどいなかったこともあって、今では逆に強みになっていると感じています。

本屋を始めるにあたって、どのように準備を進めましたか?


書店員の経験もなく、専門的な知識もまったくなかったので、最初は本当に「本屋・始める・どうする?」とかネットで検索するところからのスタートでした。それから個人経営の本屋さんに直接伺って、「本屋ってどうやるんですか?」と教えてもらいました。
茅ヶ崎のブックカフェ「ブックポートカフェ」の一角で『こんぶトマト文庫』という新刊書店をひとりで営む九鬼さんもその1人。本業の傍ら本屋をやっているという九鬼さんのスタイルを見て、「大手書店じゃなくてもできるんだ」と気づき、仕入れの仕組みから新刊の扱い方まで、教えてもらいました。

本を仕入れる(卸してもらう)方法も、調べてみると意外と選択肢が多くて。取次を通じて正式に仕入れる方法もありますが、小さな出版社さんのなかには、本屋でなくてもお花屋さんや美容院、雑貨屋さんでも本を扱えますよ、と声をかけてくれるところもあります。昔に比べて、今はずっと間口が広くなっていると思います。

出店のたびに「どうやれば本屋ができるか」と聞かれることも多いとか。


はい、すごく多いです。「やってみたい」とおっしゃる方がとても多い印象ですね。聞かれたら全部包み隠さずお伝えしています。「こうやればできますよ、誰でもできますよ」って。みんなやったらいいのに、と本当に思っています。

出店先はどのように広げられていくのですか?


出店のきっかけはさまざまです。インスタを見てご連絡いただくこともあれば、こちらからお願いしに行くこともあります。

例えば今日出店させてもらっている7325コーヒー屋さん(@7325goemon )さんは、お客さんとしてふらっと訪れたお店で、初日にいきなり「来週出店してみない?」と声をかけてもらったのがきっかけです。特別な売り込みをしたわけでもなく、ただめちゃくちゃお喋りしていたら「じゃあやってみようか」という流れになって。今も毎月定期的に出させてもらっていて、今では旅行に一緒に行くほどの仲良しに!

長野のベーグル屋さん「パンセ」さんへは、7325コーヒーさんから「きっと雰囲気合うよ」と誘ってもらって一緒に出店しました。「あの人が言うなら、きっと素敵 だろうな。行きます」って感じで広がることも多いですね。

そうした大好きなご縁が集まり、茅ヶ崎市のトライアルサウンディング(自治体が保有する公園や緑地、公共施設を、一定期間「お試し」で暫定的に活用できる制度)を利用して『本とおいしいものとすてきなもの』というイベントも主催しました。(2026年3月、38回をもっていったん最終回)



『本とおいしいものとすてきなもの』二見さん提供


絵本の世界は広いですよね。まだまだ知らない本がたくさんあるのでは?


それが、絵本屋を続けていられる大きな理由の一つかもしれません。私はたくさんの絵本を知っているつもりでいますが、それでも日本のごく一部に過ぎなくて。世界中を含めると、毎年何百・何千と新刊が出続けていますから、「やりきった」という感覚は絶対に来ない。終わりのない世界なんです。

実は大手出版社のルートでは採算が合わず、日本語版が生まれないような海外の絵本も山ほどあります。そういった本を、クラウドファンディングで資金を集めて翻訳・出版することを専門にしている出版社さんもあるんですよ。たとえば、目が見えないメキシコの男の子が色を知っていく物語の絵本(『くろは おうさま』(原題:El libro negro de los colores))など、そういうルートでようやく日本語で手に取れるようになった本もあって。書店に並んでいる絵本は、地球規模で見たら本当に氷山の一角なんだと思います。

絵本を選ぶときのポイントを教えてください。


読む側の時は、好きな作家さんとか好きな絵描きさんっていう感覚だったんですけど、本屋を始めると、出版社によって、本当に「色」があるということがわかって。作家さんの個性はもちろんですが、出版社そのものに強いこだわりや世界観があるんです。
なので「この出版社さんの本なら何でも素晴らしいから、必ず置いておきたい」と思ったものや、単純に自分が好きなもの。普段は段ボールに入ったそれらを一つ一つ表紙を見えるようにずらっと並んでるのを見るのも楽しみの1つです。

特にお気に入りなのが、高知県の「遊泳舎」さんです。『悪魔の辞典』や『ロマンスの辞典』など、言葉をとても大切にした本を作っている出版社で、社員さんが2名しかいないんです。発注に対応してくれるのも、本づくりをするのもその方たち。「こんなお客さんがこんなことをおっしゃっていました」という小さなエピソードを届けられたり、距離の近さをとても感じられる、特別な存在です。

印象に残っているお客さんはいますか?


たくさんいるんですが、一番心に残っているのは、市役所での出店のときのことです。年配の男性のお客さんが、立ち読みをしながら涙を流していらっしゃって。女性のお客さんが泣かれているのはときどきあるんですが、男性の方というのは珍しくて、私もティッシュ、ティッシュと思って探しました。

その方が読まれていたのが『ロマンスの辞典』で、引っ越しという言葉の説明に「またひとつ故郷が増える旅。」とあるんです。その方はずっと転勤族で、幼いお子さんを何度も転校させてしまったことを、ずっと負い目に感じていたとおっしゃっていました。でも、その言葉を読んで「こんな捉え方もあるのか」と、長年の思いがすーっと溶けていくような感覚があったと。

私はいつも「ただの小売です、いいと思った本を並べて橋渡しをしているだけです」と言っていて、自分でもそう言いながらどこかモヤモヤしていたんです。でも、そのお客さんのお話を聞いたとき、「この方の人生が、この本と交わることが、果たして他にあっただろうか」と思ったら、天文学的な確率でその出会いを作れたんだと気づいて。「ただの小売なんて言うんじゃない」って、自分に言い聞かせるような気持ちになりました。自分がやっていることを深く肯定してくれた瞬間でした。

 絵本の可能性について、どう感じていますか?



開業前に事業計画書を作るためにいろいろとデータを調べたんですが、紙の書籍全体の販売数や売上はどんどん右肩下がりで、電子書籍が伸びてきている。でも、児童書だけは毎年伸び続けているんですよね。書店数が減って、少子化も進んでいるのに、なぜ?と考えたんですが、明確な答えは見つからなくて。「やっぱりいいものはなくならない」ということなのかな、と。
表紙一つとっても、手触りだったり、金や白の箔押しだったり、クロス張りだったり、絵本ってとてもこだわりの詰まったものが多い。なくても生きてはいけるかもしれないけど、絵本はやっぱりなくてはならないものだと、私は思っています。

今後の夢を聞かせてください!


実は今地方に土地があって、開拓と呼んでまず木を切るところから始めています。
「1本でも木を切ってくれたら一生遊んでいいから」って言うと色んな人が少しずつ遊びがてら手伝ってくれているけど、全然進まなくて笑。ようやくこの間、3畳くらいの資材小屋が完成しました!いつかそこに自分で建てた建物で、「百色眼鏡」の実店舗を持てたらいいなと思っています。

 移動式という形から始まり、出版社との丁寧な関係を育みながら、各地で絵本と人とを引き合わせてきた二見さん。屋号の由来となった「百色眼鏡」のように、出会う人それぞれの心にキラキラした光を届けながら、本と人との幸福な出会いを作り続けています。

取材を終えて


取材のきっかけも一冊の本でした。
以前取材したグジェゴジェ9(@gujegoje9)さんへの出店時にふらりと立ち寄ったところ、子どもの頃に漫画で知って以来「本当にあるならいつか読みたいなぁ」と心の片隅に持ち続けていた『悪魔の辞典』が、そこにあったのです。まさかこんな形で再会するとは!(原書ではなく1911年にアメリカで刊行された辞書パロディの古典。百色眼鏡さんに置いてあったのは、遊泳舎がそのオマージュとして現代風に再構築した一冊でした。)

お話を伺ううちに、本の流通のしくみや、世界中に広がる絵本の奥深さに、ぐんと視界が開けるような感覚を覚えました。のんびりとした話し方の奥に、熱い使命感がにじむ二見さん。気づけば筆者、少し涙ぐんでいました(歳か)
私自身も、本の世界と引き合わせてもらったひとりです。二見さん、本当にありがとうございました。

この記事を書いた人
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    強田 美央(gouda mio)

    大阪出身 湘南鵠沼在住フォトグラファー。

    大切な家族と大好きなこの土地で、末永く、楽しく暮らしていくための種蒔き中。
    地元の皆さんともっと知り合いたい!
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    チームでも活動中。
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