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2024年5月8日(水)

水族館でチーム医療を実践(鵠MAI)

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犬や猫は人類が何千年も付き合ってきたかけがえのない存在です。家族同然あるいは友人と考える方も多いと思いますが、法律上の位置付けは「モノ」です。実態にそぐわないと最近は見直し気運が高まっています。最初に動いたのが医療分野でした。犬猫は家族同然という社会通念に即し、新たな国家資格・愛玩動物看護師ができました。ペットの看護師さんです。病気や高齢のペットを支える質の高いチーム動物医療体制を整えるためです。今回は愛玩動物看護師の1期生で、新江ノ島水族館でイルカやアザラシなどの海獣のほか、サメやウツボなど大型の魚類の医療も担当している矢作茉奈さん(30)に話を聞きます。

【やはぎ・まな】

1993年横浜市生まれ。小学生のころに動物の医療に関わる仕事がしたいと思い立つ。中学生時代に動物の看護師になろうと決意し、日本獣医生命科学大に進学。動物保険のトップ企業に就職し、動物病院での勤務を経て、6年前、学生時代の研修で親しみを覚えた新江ノ島水族館に転職した。愛玩動物看護師の第1回国家試験に合格し、水族館でのチーム動物医療体制をスタート。

愛玩動物看護師の仕事

病気の治療や予防をする獣医さんの補助をします。血液などの定期検査、個体のカルテ管理、薬品管理、データの収集や整理などがメインの仕事ですね。イルカやアザラシなどの哺乳類とペンギンやウミガメのほか、サメとかウツボなどの大型の魚類も担当しています。魚類は専門の飼育担当が中心になりますが、医療が必要な時には声がかかりますね。
水族館勤務ですから、調餌(ちょうじ、餌切り)やプールの潜水掃除の一部も担当します。イルカの採血トレーニングなどそれぞれの動物に合わせた処置への慣らし練習にも関わるよう心がけています。検査に使う器具に動物になじんでもらうためです。難しいのは超音波検査ですね。海獣は水を通して超音波を敏感に感じますから、初めての個体に器具を当てるのはとても大変なんです。初めてのモノは怖いですから、慣れてもらうことが欠かせないのです。
飼育の専門家であるトリーターさんと医療の専門家である獣医さんの中間的な存在で、双方の専門性を動物たちのために役立てるコーディネーターのような役割も担っています。さまざまな分野の専門家が協力して進める医療体制をチーム動物医療といいます。愛玩動物看護師は先進国に比べて遅れている日本のチーム動物医療を充実させるために創設されました。動物の一番近くにいるトリーターさんと、医療の専門家である獣医さんの意見が異なることもありますから、双方の考えを聞き取り、最善策につなげる努力をします。

アザラシのビッグパネル前で撮影すると、一緒にプールに入っているように撮れました

動物病院から水族館へ

小学3年生の時にジャック・ラッセル・テリアを飼い始め、将来は動物の医療に関わる仕事がしたいと思うようになりました。動物の看護師になろうと決めたのは洗足学園時代です。獣医ではなく、看護師を選んだのは、サブ的なポジションの方が好きだし、自分の力を発揮できると思ったからです。それで、日本獣医生命科学大・獣医学部獣医保健看護学科に進みました。
大学では犬・猫のほか、野生動物や産業動物についても学びました。在来馬の木曽馬のお世話もしていました。趣味がダイビングだったので、海の生き物にも自然と興味を持ちました。それで、獣医保健看護学科では異例なんですが、水族医学研究室に頼んで入れて貰い、スナメリ(イルカの仲間)の解剖・病理も研究しました。4年生の夏、新江ノ島水族館で2週間の学芸員研修をする機会があり、「ここで生き物の健康を守る仕事がしたい」と思うようになったのです。
大学卒業後は大手の動物病院などで勤務しましたが、えのすいの募集はチェックしていましたね。3年待ってチャンスに巡り会います。募集は飼育担当でしたが、目標は水族館でのチーム動物医療の確立と定めました。愛玩動物看護師の国家試験は2022年5月に創設されました。まさに目指していたものでしたから、仕事の間を縫って勉強し、第1回の試験にパスすることができました。

普段の仕事スタイルはこんな感じ

新江ノ島水族館では数年前までチーム動物医療体制がなく、獣医師のみが1~3人常駐し、治療や検査をしていました。国家資格を得たことで、改めて専門性を持つ動物医療のチームの一員として仕事ができるようになりました。当初、抱いた目標は達成できました。新たに獣医師の新人2人が加わり、現在は獣医師3人、看護師1人のチーム体制になっています。ほかの水族館への視察や出張検診などにも出かけています。検査内容が違うこともあり、情報交換の場にもなっています。水族館で働いている愛玩動物看護師はまだ10人程度です。日本のチーム動物医療を充実させるためにも、もっと仲間が増えてくれたらうれしいですね。

これから目指すことは

シンプルですが、水族館にいる動物たちの健康を守るということに尽きます。そのためには学ばなければならないことがたくさんあります。水族館での医療は、小動物の臨床とは全く違う現場です。海獣は体がとても大きいですし、海に適応した生き物ならではの個性があります。海獣診療の専門書を読み、獣医師に教えて貰ったりすることもたくさんあります。
トリーター(飼育担当)たちと一丸になって挑戦した治療が成功したときには本当にやりがいを感じます。チーム動物医療の狙いは、それぞれの動物に合わせた医療を提供することにあります。動物は家族同然ですから、求められる医療の内容も高度化、多様化しています。愛玩動物看護師として、最適な医療を提供するチーム動物医療を担っていきたいと思います。

ウツボが泳いできたら、「あの子も患者さんです」


日本に10人しかいない水族館の愛玩動物看護師は「えのすい」にいます

オフはどうしていますか

医療に携わる以上、いつも緊急事態に備えていなければいけません。たくさんの動物たちがいますから、充実していますが、とても忙しいですね。息抜きは大好きなお酒です。仕事仲間とも飲むし、1人で飲むのも好きです。毎日飲んでますね。多忙なんですが、休みもきちんといただいてます。学生時代から始めたスキューバにはまっていて、年1回は沖縄・慶良間の海に潜りに行きます。

相模湾大水槽はちょうどお食事タイム。お客さんの後ろに立って貰った。「今が一番にぎやかな時間ですね」

いつも健康管理をしているペンギンさんたちと一緒に

この記事を書いた人
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    因幡 健悦(毎日新聞)

    1959年生まれ。横浜支局を振り出しに主に政治取材を担当。
    現在は湘南エリアを中心に神奈川の社会・文化を情報発信している。

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