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2026年7月28日(火)

スノーボードに明け暮れた男が、藤沢で「野菜とワイン」の店を開くまで──ハルクッチィ・瀬上豪晴さん

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藤沢に、「野菜とワイン」だけで勝負するお店があります。2014年7月にオープンした「ハルクッチィ」。店主の瀬上豪晴さんは、オーストラリア生まれで「地元がない」少年時代を過ごし、20代はスノーボードに明け暮れ、東日本大震災をきっかけに湘南へやってきました。波乱万丈の道のりなのに、本人はどこまでも軽やか。「単純に、どっちも好きやから」と笑う瀬上さんに、お店ができるまでの歩みと、一皿一皿に込める想いを聞きました。

「出身は、特にないんです」──世界を転々とした少年時代


取材の冒頭、出身地を尋ねると、意外な答えが返ってきました。

『出身って、僕特になくて』


生まれはオーストラリア。スウェーデン、ドイツ、オーストリアと、親の仕事の都合で各国を転々とし、日本に帰ってきたのは小学校6年生のとき。そこから7〜8年を神戸で過ごしました。ふとした瞬間にこぼれる関西弁は、この頃の名残です。その後は福島に7〜8年。そして2011年から湘南へ。気がつけばもう15年、人生でいちばん長く暮らした土地になりました。

世界を転々としていた幼少期

冬はスノーボード漬け──中学の喫茶店で芽生えた夢


20歳そこそこでスノーボードにのめり込み、大会に出たり、雑誌やDVDの撮影に参加したり。冬は雪山、春から秋はパチンコ屋や運送業のアルバイトでお金を貯める生活。それでも時給の安い飲食店のアルバイトだけは手放しませんでした。「いつかは飲食店をやる」という夢のためです。

その夢のきっかけは、中学生のとき。学校をサボって入った喫茶店で、コーヒーにミルクを注ごうとしたら、マスターが声をかけてきたそうです。

「ミルク入れてみ」って言われて入れたら、ポツポツポツって上がってきて。多分あれ、生クリームやったんですよね。それを指さして「こういうお店に行けよ」って。要は、ちゃんとこだわってるお店に行けよ、って


中学生相手に本気で語りかけてくるマスターを「かっこええ」と思った瀬上さんは、このとき心に決めます。
もう絶対、自分のお店をやる──。

震災が変えた進路──スーツを着てハローワークへ


転機は2011年3月。実はその月末で仕事を辞め、大好きな福島で飲食店を開くつもりだったといいます。そこに、東日本大震災が起きました。神戸の震災も経験していた瀬上さんにとって、2度目の大きな地震でした。

『僕のそばには奥さんがいたんで、せめてこの人ぐらいは守らなあかんっていうのがあって』


「年に一度は福島に遊びに行ける範囲で」と奥さんに移住先を探してもらい、たまたま見つかったのが鎌倉。第一印象は「めっちゃ都会やん」だったそうです。

来たからには、ちゃんと修行しよう。そう決めたものの、それまで就職活動をしたことがなかったため、「ハローワークにはスーツで行くもの」と思い込み、肩パッド入りのスーツでひとりだけ浮いていた──というのは、いまでは笑い話。

そこでたまたま見つけたのが、藤沢駅北口にあったイタリアン「ガッティ」でした。移住からわずか1週間ほどで面接を受け、3年間、半分は料理人として、半分はサービスとして働きます。オーナー、シェフ、瀬上さんの男3人、本気でお店を良くしたいから大声で喧嘩もする、濃密な日々でした。

あそこをチョイスした僕の先見の明は素晴らしかったと思います。あっこ行ったから今のお店があるなと、いつも思います


背水の陣で開いた「ハルクッチィ」


「そろそろ自分のお店を」と思い始めていた頃、社員がひとり辞めることになりました。

『ほんまは物件を見つけてから辞めたかったんですよ。食い扶持がなくなるから。でも、そんなやり方してたら、ずるいなと思って』


その場で「僕も辞めます」と宣言。物件も決まっていない状態からの、まさに背水の陣でした。そうして2014年7月、「ハルクッチィ」をオープン。今年でちょうど13年目を迎えます。

お店の外観、植物とワインが並ぶ

『お腹いっぱいのこと、福島弁で「はらくっちー」って言うんですよ。それに僕、みんなに「はる」って呼ばれてるんで、その造語で「ハルクッチィ」』


早口で言うと「はるくんの家」にも聞こえる、という遊び心も込めたネーミング。最初はなかなかお客さんが来ず、ゆっくりゆっくり認知されて今に至りますが、「大変なおかげでこれができたっていうのがいっぱいある。結局、ネタになっちゃいますよね」と笑い飛ばします。

「野菜って、こんなに幅広いんや」と驚いてほしい


ハルクッチィのコンセプトは、野菜料理とナチュラルワイン。乳製品も、卵も、肉も、魚も使わない「お野菜だけ」のお店として、オープン当初から何ひとつ変わっていません。なぜ野菜とワインなのか。答えはシンプルでした。

看板メニューの生春巻き

『単純に、どっちも好きやからです』


マクドナルドで兄がビッグマックを頼む横でフィレオフィッシュを選び、デートでは刺身より先に「つま」を食べていたという筋金入り。それでも「僕、今でもお肉は食べるし、肉を食べる人に対して否定的な思いももちろんない。単純に野菜が好きなんですよね」


だからこそ届けたいのは、「野菜のお店=スティックサラダ」というイメージを超えていく驚きです。

豆乳ベースのピッツァマルゲリータ

『きんぴらごぼうとか、切り干し大根の煮物とか、あれも野菜料理じゃないですか。あれも野菜であんな味できんのすごいな、みたいな。驚いてもらいたいし、楽しんでもらいたいし』


リピーターに愛される看板メニューは、「切り干し大根と紫蘇のジェノヴェーゼ」、見た目も華やかな「生春巻き」、そしてチーズを使わず豆乳でコクを出す「カチョ・エ・ペペ」の3品。初めて訪れる人に、まず食べてほしいそうです。

切り干し大根と紫蘇のジェノヴェーゼ

仕入れにも「顔の見える関係」があります。今よく使うのは、藤沢・大庭の生産者、天野さんの野菜、フロムベジ湘南、そして農家さんが毎日直接販売する鎌倉の連売(鎌倉市農協連即売所)。自宅のある鎌倉から、朝そこで買って出勤することが多いといいます。

『「彼が作ったキャベツだから輝かせてやろう!」みたいな、重い思い入れはないですよ(笑)。ただ、人と人との繋がりを通じて仕入れたお野菜で料理を作るプロセスが、なんかいいなと思うんです』


もうひとつの主役、ナチュラルワインも同じです。

『今年と来年、今日と明日で味が全然違う。そうやって変化する味をそのまま楽しめるのが最高です』


国内外のワイナリーを巡り、試飲会に顔を出し、熱量のある造り手と直接話す。野菜もワインも、その向こうにいる「人」とつながりながら仕入れるのが、ハルクッチィの流儀です。

2店舗目はやらない──この広さだから、一皿ずつ丁寧に


ハルクッチィの夜は、ゆっくりと流れます。営業は23時まで。ワインを3杯ほど飲みながら4〜5時間過ごすお客さんも珍しくありません。印象的なのは、料理を出すたびに一皿ずつ丁寧に説明してくれること。実は2店舗目を考えた時期もありましたが、考え直しました。

『この小さなサイズ感だからこそ、お客さん一人ひとりに料理のこだわりを丁寧に説明して、という「僕が本当にやりたい表現」ができている。お店を大きくすると、それができなくなってしまう』

初めての人には、予約制のコースがおすすめ。「野菜ばっかりだから何が出てくるのかわかんない」からこそ、お任せでお店の雰囲気ごと楽しむ人が多いそうです。

やりがいは「圧倒的に、人です」


お店をやっていて一番幸せを感じる瞬間を尋ねると、迷いのない答えが返ってきました。

『もう、圧倒的に「人」です。お客さんやスタッフといった「人」とちゃんと向き合って、腹を割って接したことが、温かい繋がりという答えになって返ってきた時ですね』


昔のスタッフが辞めてから何年も経って「子供が生まれたよ!」と報告に来てくれる。常連さんが生まれたばかりの赤ちゃんを連れてきてくれる。お店は常に瀬上さんとスタッフひとりの2人体制で、「ただの雇い主と労働者」ではなく人として向き合いたいといいます。

『僕のその距離感が暑苦しくて辞めていった子もいますけど(笑)、今いてくれるスタッフとは何でも相談し合える信頼関係があります』

その温かさは店内にも表れています。居抜き物件を自分の手で改装し、壁を塗り、床板を貼り、絵まで自分で描いたこの空間には、昔のスタッフが書いてくれた壁の文字や、常連だったイギリス人アランさんが1日1杯のワインを飲みながら、2日がかりで描いたハートの絵が、いまも残っています。

この場所は僕の財産


今後の目標を聞くと、瀬上さんはお店の未来を「人に還元すること」で語りました。

『うちのスタッフたちもみんな本当に魅力的な子ばかりなので、この「ハルクッチィ」という場所を、彼女たちの夢やチャレンジのためにどんどん利用してほしい。この場所は僕の財産ですから、それをスタッフにどんどん還元していきたい』


ネイルアートをするスタッフには「ネイルチップの販売やイベントをここでやってみたら?」と提案。取材の翌日には、スタッフがひとりで店を切り盛りし、自分で仕入れたワインと料理を出す1日限定の営業が控えていました。場所代は取らず、無償で好きに使ってもらっているそうです。

ハルクッチィを支えるスタッフたち

自分自身の目標は、と聞くと「奥さんと、中学1年生になった子供と、家族みんなで仲良く過ごして、海外旅行に行ったり、サーフィンに行ったり。この充実している環境を、ずっと穏やかに継続していけたら一番幸せですね」と、とても穏やかな答えが返ってきました。

「焼肉帰りの二軒目でも、全然大歓迎です」


最後に、読者へのメッセージをお願いしました。

『ヴィーガンのお店って、ちょっとストイックなイメージを持たれがちやと思うんです。でも僕は普通にお肉も食べますし、お肉を食べる人を否定する気持ちも一切ありません。ただ単に「お野菜とナチュラルワインが好きでやっているだけのお店」なので、焼肉を食べた帰りの二軒目としてフラットに来ていただいても、全然大歓迎です』


肩肘張らない、フランクな「お野菜とワインの食堂」。それが伝わって、気軽に遊びに来てもらえたら嬉しい──と瀬上さんは締めくくりました。

インタビューを終えて


インタビュー当日にランチのワンプレートをいただきました。一品一品が丁寧に作り込まれていて、「野菜ってこんなに幅広いんや」という言葉をそのまま舌で体験したような時間でした。震災も、背水の陣の独立も、全部「ネタ」に変えて笑い飛ばす軽やかさと、「圧倒的に人」と言い切る温かさが、ハルクッチィの空気をつくっているのだと感じました。

気になった方はぜひ、藤沢の「ハルクッチィ」に足を運んでみてください。
野菜の驚きと、ゆっくり流れる夜が待っていると思います。

店舗情報
野菜とちょっとワイン食堂 ハルクッチィ(harukucchii)
住所:神奈川県藤沢市鵠沼花沢町3-22
アクセス:JR・小田急・江ノ電 藤沢駅 南口より徒歩5分
電話:0466-90-4554
営業時間:火・金/17:30〜23:00(L.O. 22:00)、水・木・土/11:30〜15:00(L.O. 14:00)、17:30〜23:00(L.O. 22:00)定休日月曜・日曜
公式サイト

この記事を書いた人
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栗原 恵介

湘南生まれ湘南育ち。
(鵠沼中→湘南高)
さらに地域を盛り上げたいという想いから22年8月にLocomoを立ち上げました!

ホスト・イベント・想い・感謝。
そういったものが集まるハートフルなメディアを軸に、皆さんと一緒にLocomoの和を広げていければと思います!

【好き】
音楽、サッカー、フレスコボール、サウナ

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