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2026年8月20日(木)

「あ、まだスワンがある」——鵠沼で74年、味を変えないケーキ屋の3代目

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小田急江ノ島線・本鵠沼駅の近くに、昭和27年創業の「スワン洋菓子店」があります。ショートケーキ、コーヒーケーキ、モンブラン。ショーケースに並ぶのは、初代から変わらないお菓子たちです。今月で創業74周年、3代目の中西さんに話を伺いました。「こだわりは、意識してないんです」——そう笑う言葉の奥にある、74年分の物語です。

スワン洋菓子店の外観

見た目もシンプル、味もシンプル


「スワンってどんなお店ですか」。そう尋ねると、中西さんは少し考えてから、こう答えてくれました。

「ケーキを見ていただいたら大体わかるんですけど、ちょっと年配の人から見れば『懐かしい』感じがするようなケーキを売ってますよね」


桃の季節には桃のお菓子も並びますが、丸ごとそのまま桃を使った、飾らないつくり。いろんな味を混ぜ込むのではなく、コーヒーケーキなら「ドストレートにコーヒー」、モンブランなら栗の味がまっすぐ伝わってくる。

「よく言えば『素材の味がわかる』っていうのかな。見た目もシンプルですし、味もシンプルなお店っていう感じですね」

ショーケースの一部

戦後の砂利道、間口2メートルの店から


スワン洋菓子店の始まりは、戦後の復興期にさかのぼります。戦争から引き揚げてきた初代——中西さんの祖父は、滋賀の出身。「何をしようか」と当てもなく考えていたとき、頼ったのが、鵠沼海岸でケーキ屋を営んでいた親戚でした。そこでケーキづくりを教わり、独立して開いたのがこのお店です。

場所は、創業からずっと変わっていません。

「全然動かないです(笑)」


当時の間口はわずか2メートルほど。隣にはスーパーの「カメヤ」、魚屋、電気屋、おもちゃ屋と、間口の狭い店が軒を連ねていました。道はまだアスファルトではなく、砂利と砂の道。空いていたのはスーパーと魚屋の間の細長い一区画だけでしたが、「とにかく駅の近くだ」——初代はそこに決めました。開店当初はケーキの種類も少なく、手焼きせんべいも売っていたといいます。

創業当時のスワンと初代店主

材料の調達も、今では想像もつかない苦労がありました。特に砂糖は簡単には手に入らず、時には新潟まで出向き、砂糖を背負って帰ってきたこともあったとか。冷蔵庫も電気式ではなく、箱の上に氷を置いて、降りてくる冷気で生クリームを冷やしていた時代です。

そして「スワン」という店名の由来は、近くの蓮池にあります。昔、そこに飛来していたシラサギを、白鳥と見間違えた人がいたそうです。白鳥は古い言葉で「くぐい」——地名「鵠沼」の「鵠」の字そのものです。そこからヒントを得た初代が店名を考えていたとき、決め手になったのは、当時10歳ほどだった娘(中西さんのお母様)の一言でした。

「ケーキ屋さんならスワンがいい。英語がいい」


「白鳥」ではなく「スワン」。女の子の一言で、74年続く店の名前が決まりました。

ずっと同じ場所で進化し続けてきた

「まあ、やるのかな」——ゆるやかな継承


中西さんが生まれたとき、店にはすでに初代と2代目——サラリーマンから婿入りした父が立っていました。自分が継ぐことを意識し始めたのは、小学校高学年の頃だといいます。とはいえ、悲壮な決意があったわけではありません。

「別に何もプレッシャーもないですし、義務的な気持ちもなかったですし。なんとなく、緩く『やるのかな』みたいに思い始めて」


車が好きで、車関係の仕事もいいなと思ったこともある。でも頭の中にはいつも「最終的にこれを継ぐんだな」があった。我慢でもしょうがなくでもなく、自然に。

中学生になると、クリスマスには人手が足りず、土日に手伝いに駆り出されるように。「休みなのになあ」と思いながらの雑用だったそうですが、毎年欠かさず続きました。高校卒業後は製菓の専門学校で2年学び、東京のお菓子屋さんへ3年間の修行に出ます。

東京で修行していた頃の中西さん

まだ修行を続けたい気持ちもありましたが、店では父の肩や腕が限界に近づいていました。「帰ってきてくれ」の声に応えて鵠沼に戻ったのが24歳の頃。それから今日まで、ずっと厨房に立ち続けています。

東京での修行時代には、思わぬ発見もありました。

「東京からこちらの駅に降りた時に、本当に空気が違う。深呼吸したくなるっていうのかな。『あ、空気が違うんだ』って。初めて知ったのはその時ぐらいですかね」


生まれ育った鵠沼の良さに気づいたのは、一度離れてみてからだったのです。

こだわりは「美味しいと思ってもらえるか」だけ


お店のこだわりを尋ねると、中西さんは「結構難しいですね、その質問(笑)」と考え込みました。

「意識して作ってないので。ただただ『美味しいと思ってもらえるかな』と思って作ってるので。お客さんが美味しいと思ってもらえるんであれば、っていう」


初代から続く「ミルククッキー」は、本人いわく「何の変哲もないクッキー」。けれど子どもの頃に親に買ってもらって食べた人にとっては、何十年経っても懐かしい味です。昔ながらの丸くて大きなマドレーヌも、配合をほとんど変えずに焼き続けています。

そして看板商品が「コーヒーケーキ」。初代が修行先で教わり、そのまま受け継いだお菓子です。その店はすでになく、あの形とあの味は、今ではスワンでしか食べられません。
ショートケーキ、モンブラン、シュークリーム、エクレア、ホールの「レモンパイ」——定番はどれも、昔のレシピのまま。

「私の親ぐらいの方が買いに来ると、その方が子供の時から食べてるお菓子だったりするので。『めちゃくちゃ懐かしい』とか『やっぱりこれは美味しい』とか、よく聞きますよね」


親から子へ、子から孫へ。3世代で通うファンがいる店です。

エクレアは皇室へ、サブレーは藤沢メダカのために


74年の歴史には、驚くようなエピソードも残っています。
かつて鵠沼には秩父宮家の別邸があり、スワンのお菓子をよくお求めいただいていたといいます。そのお宅から皇室へお菓子が届けられたこともあり、エクレアを気に入られた香淳皇后から、菊の御紋入りのタバコをお礼にいただいたのだそうです。

地域との関わりで欠かせないのが「藤沢メダカサブレー」です。絶滅したと思われていた「藤沢メダカ」が近所のお宅の池で見つかり、DNA鑑定で正式に確認されたことから、地域を挙げた保護活動が始まりました。全国のメダカ保護団体が集まるシンポジウムが藤沢で開かれることになったとき、「メダカにちなんだお土産を」と相談を受けた2代目が、以前からあった「スワンサブレー」をもとに考案したのがメダカサブレーでした。

話はお菓子だけでは終わりません。魚釣りが大好きだった2代目は、「本物のメダカも増やせないか」という相談まで引き受けてしまいます。

「うちの父親もすごい頑張ってやってまして、メダカを3万匹ぐらい。もちろん完全ボランティアですよ」


ケーキ屋の裏でメダカ3万匹。江の島の水族館に寄付しました。

店内には藤沢メダカの水槽

ほかにも、江の島の藤沢市指定天然記念物の木「シマナンヨウスギ」をモチーフにした焼き菓子「江の島」など、地元にちなんだお菓子づくりは続いています。パッケージのデザインは、地域のイベントやつながりづくりを一手に担う、奥さまの貴子さんが手がけたもの。

「彼女はもうアンテナをバーンと張って、いろんな人たちと会って、横のつながりを作って。すごい頑張ってますよ」


「私はお菓子が作れないので(笑)」と笑う貴子さんと、厨房に立ち続ける中西さん。夫婦の役割分担が、今のスワンを支えています。

「あ、まだスワンがある」と言われる店


74年続いた理由を尋ねると、中西さんは「味を変えなかったこと」を挙げました。最初に美味しいと思ってくれた人がリピーターになり、その子どもや孫がまた食べに来てくれる。そして、やりがいを感じる瞬間も、そこにあります。

「子供の時食べてて、お嫁に行ったり引っ越しで外に行っちゃって。何十年か経ってこちらに来て、『あ、まだスワンがある』って。入ってみると『あのお菓子がまだある!』、食べて『同じ味!』。それを聞かされると、やっててよかったな、続けててよかったなって。お店やって5年、10年じゃわからないことかもしれないです」


これからの目標も、派手なものではありません。「去年から今年、今年から来年、同じことの繰り返しになるかもしれないですけど、それを続けていければ」。今は25〜26種類のケーキを朝からひとりで仕込む日々。体力との勝負ではありますが、遠方から来る人のために、いつかイートインができたら——という夢も、そっと聞かせてくれました。

最後に、この記事を読む方へのメッセージを伺いました。

「ここに住んでない外の方たちに、ぜひ一度鵠沼というところに来ていただいて。緑がすごく多いところなので、ちょっと街を歩いていただいて。それでちょっとうちへ寄っていただいて、うちのお菓子をお土産に買っていただけたらな、っていう感じですね」

インタビューを終えて


取材を通して、湘南鵠ッ子・鵠沼ポテト・コーヒーケーキ・ショートケーキ・まるごと桃、など様々な焼き菓子やケーキをいただいたんですけど、本当に美味しくて幸せな時間でした。
実は私の父親も小さい頃、スワンのコーヒーケーキを食べていたそうで、久しぶりにコーヒーケーキを買っていくと、「これこれ!」と美味しそうに食べていました。笑
昔の味が今もそこにある。そんな当たり前を作り続ける74年の日常に少しでも触れることが出来て、すごく嬉しかったです。

気になった方はぜひ、本鵠沼のスワン洋菓子店に足を運んでみてください。

■ 店舗情報
スワン洋菓子店
住所:神奈川県藤沢市鵠沼桜が岡3-5-3
電話:0466-22-4668
営業時間:平日 10:00〜18:00 / 土日祝 10:00〜17:30
定休日:火・水・木(不定休あり)
※当面の間、毎週火・水・木がお休みです。
最新の営業日は公式サイトの定休日カレンダーをご確認ください。
アクセス:小田急江ノ島線 本鵠沼駅から徒歩1分 駐車場:あり(店頭)
公式サイト:http://kugenumaswan.com/

この記事を書いた人
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栗原 恵介

湘南生まれ湘南育ち。
(鵠沼中→湘南高)
さらに地域を盛り上げたいという想いから22年8月にLocomoを立ち上げました!

ホスト・イベント・想い・感謝。
そういったものが集まるハートフルなメディアを軸に、皆さんと一緒にLocomoの和を広げていければと思います!

【好き】
音楽、サッカー、フレスコボール、サウナ

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